金剛杵(こんごうしょ)について

チベット仏教で使われる、独鈷杵(とっこしょ、どっこしょ)、三鈷杵(さんこしょ)、五鈷杵(ごこしょ)、九鈷杵(くこしょ)について説明します。これらは「金剛杵(こんごうしょ)」という仏教の法具の一種で、とても重要な意味を持っています。
日本の仏教で「金剛杵(こんごうしょ)」と呼ばれる法具は、チベット語でドルジェ(rdo rje)といいます。これは、サンスクリット語のヴァジュラ(vajra)に由来する言葉です。
そして、鈷(こ)の数によって呼び方が変わりますが、チベット語でも同様に、その数の単語と「ドルジェ」を組み合わせて表現します。
独鈷杵(とっこしょ、どっこしょ):
チベット語:ドルジェ・ギク(rdo rje gcig)
「ギク(gcig)」は「1」を意味します。
三鈷杵(さんこしょ):
チベット語:ドルジェ・スム(rdo rje gsum)
「スム(gsum)」は「3」を意味します。
五鈷杵(ごこしょ):
チベット語:ドルジェ・ンガ(rdo rje lnga)
「ンガ(lnga)」は「5」を意味します。
九鈷杵(くこしょ):
チベット語:ドルジェ・グー(rdo rje dgu)
「グー(dgu)」は「9」を意味します。
このように、「ドルジェ」という言葉に、それぞれの数のチベット語を付け加えることで、異なる種類の金剛杵を区別しています
一つずつ、分かりやすく説明しますね。
金剛杵(こんごうしょ)とは何か
まず、「金剛杵」とは何かから説明します。「金剛」とは、もともとダイヤモンドのように硬く、絶対に壊れないものを指す言葉です。仏教の世界では、「煩悩(ぼんのう)」という私たちの心を苦しめるものや、邪悪なものを打ち破る、仏様の智慧や力、つまり「金剛」のように強くて揺るぎない力、を象徴しています。
そして、「杵(しょ)」は、何かを砕いたり、打ち破ったりするための道具です。
つまり、「金剛杵」は、煩悩を打ち破り、私たちの心に潜む迷いや悪を砕く、仏様の智慧や慈悲の力を象徴する道具なのです。
【歴史と背景】
もともと金剛杵の起源は古代インドの神話にあります。
雷の神・インドラが悪魔を倒すために使った武器が「ヴァジュラ」であり、それが仏教に取り入れられ、煩悩を打ち砕く象徴となりました。 チベット仏教ではこの武器が「智慧の象徴」として再解釈され、修行者が仏の力に近づくための道具となっていったのです。
このように、雷のように強力であらゆるものを打ち砕く力を持っていたこの武器が、仏教に取り入れられ、私たちの心を救うための法具となっています。
日本にも奈良時代から伝わり、真言宗や天台宗などで使われています。
では、この金剛杵には、なぜ「独鈷」「三鈷」「五鈷」「九鈷」と、形の違いがあるのでしょうか?
独鈷杵(とっこしょ、どっこしょ)
【意味】
唯一の真理: 「一つ」の真理、つまり仏教の教えそのものが唯一絶対のものであることを表しています。
煩悩からの解放: 煩悩という心の迷いを一つに集中させ、そこから解き放つ力を象徴しています。
【使い方】
独鈷杵は、修行者が心を集中させたり、一つの真理に心を向けたりするときに使われます。
三鈷杵(さんこしょ)
【意味】
三つの世界(三界): 仏教では、私たちの世界は「欲界」「色界」「無色界」という三つの世界に分かれていると考えます。三鈷杵は、これらすべての世界を支配し、迷いから救う仏様の力を表します。
三つの智慧: 「過去」「現在」「未来」の三つの時間を通して、仏様の智慧がすべてを照らし、私たちを救ってくれることを象徴しています。
三密(さんみつ): 密教の修行では、「身(しん)」「口(く)」「意(い)」という三つの行いを清めることが重要とされます。この三つの行いを清める力を表します。
身(しん): 体の行い。
口(く): 言葉の行い。
意(い): 心の行い(心の中で考えること)。
【使い方】
三鈷杵は、仏様の力を借りて、私たちの心・言葉・体のすべてを清めるときに使われます。特に、仏様の教えを広める儀式や、厄除けの儀式でよく使われます。
五鈷杵(ごこしょ)
【意味】
五智如来(ごちにょらい): 密教の中心となる五つの仏様、つまり「五智如来」の智慧を象徴しています。五智如来とは、私たちの煩悩を五つの智慧に変える力を持つ仏様です。
大円鏡智(だいえんきょうち): 鏡のように、すべてのものをありのままに映し出す智慧。
平等性智(びょうどうしょうち): すべてのものが平等であると見通す智慧。
妙観察智(みょうかんざっち): 相手の個性を見抜き、適切に教え導く智慧。
成所作智(じょうしょさち): すべての行いを成し遂げる智慧。
法界体性智(ほっかいたいしょうち): 仏様の境地に到達する智慧。
五行: 古代中国の思想である「木・火・土・金・水」の五つの要素を象徴することもあります。
【使い方】
五鈷杵は、もっとも一般的で、広く使われる金剛杵です。仏教の儀式や修行において、五智如来の智慧を借りて、私たちの煩悩を打ち破り、悟りに向かうために使われます。特に、真言宗や天台宗といった密教の宗派で、重要な法具として用いられます。
九鈷杵(くこしょ)
【意味】
九字(くじ): 密教の儀式で使われる「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」という九つの言葉や、九つの神様を象徴しています。これは、悪霊を払い、身を守るための呪文です。
強力な力: 数字の「九」は、「完全」や「最大」を表すことがあり、九鈷杵は、煩悩を打ち破る最も強力な力を象徴しています。
【使い方】
九鈷杵は、特に強力な魔除けや、悪を打ち破るための儀式で使われます。五鈷杵よりもさらに大きな力が必要な場面で用いられることがあります。

これらの金剛杵は、もともと古代インドの武器「ヴァジュラ」が起源ですが、仏教に取り入れられる中で、単なる破壊の道具ではなく、「煩悩という心の迷いを打ち破り、人々を救うための慈悲の力」を象徴するようになりました。
それぞれの形(独鈷、三鈷、五鈷、九鈷)は、私たちの心の状態や、仏様の教えの様々な側面を表しています。
独鈷杵: 唯一絶対の真理に集中する力
三鈷杵: 心・言葉・体の三つの行いを清める力
五鈷杵: 五智如来の智慧によって煩悩を打ち破る力
九鈷杵: 最も強力な魔除けの力
このように、金剛杵は、単なる形ある道具ではなく、仏様の智慧や慈悲の力を私たちに伝えてくれる、とても大切な法具なのです。チベット仏教では、仏様の教えを学ぶための重要なシンボルとして、大切にされています。




