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イカット について

こんにちは、ガイドのトラジです。
イカットは、インドネシアの織物の布のことで、日本では絣の織物になります。
インドネシアのイカットは、織物の前に糸を染める技法で、様々な種類や意味を持つ柄を作り出します。イカットの種類は、経糸(たていと)だけを染める経絣(たてがすり)、緯糸(よこいと)だけを染める緯絣(よこがすり)、経糸と緯糸の両方を染める経緯絣(たてよこがすり)の3種類があります。それぞれの制作方法や模様の意味について、以下に説明します。
バリ島の東の浮かぶスンバ島、フローレス島などの東ヌサ・トゥンガラ諸島で作られる織物(イカット)は、模様の豊かさとデザイン構成のユニークさから、世界の愛好者や専門家の間でも高い評価を得ています。
それらの模様は、多くの場合、単なる飾りではありません。そこには彼らの文化や信仰に基づいた重要な「意味」が織り込まれています。例えば部族の生活を律する慣習法や歴史、彼らが信じる世界観、社会的な地位を表しています。
このようにイカットは、それそれの島の自然、文化、宗教の違いから、島ごとにそのデザインが異なっています。 大まかな違いは、以下で説明しますね。

経絣

経糸に柄を染める前に、色を付けたくない部分に紐でくくって防染します。その後、染料に浸して色を付けます。染め上がった経糸を機に張って、単色の緯糸と交差させて織ります。この方法で作られたイカットは、インドネシアのほとんどの地域で見られます。柄は主に幾何学模様や動物や植物などの自然のモチーフが多く、それぞれに霊的な意味や祈願が込められています。例えば、鶏や雄鶏は王族や権力を象徴し、エビは永遠の命を象徴し、蛇は死後の世界を象徴すると言われています。

緯絣

緯糸に柄を染める前に、色を付けたくない部分に紐でくくって防染します。その後、染料に浸して色を付けます。単色の経糸を機に張ってから、染めた緯糸と交差させて織ります。この方法で作られたイカットは、バリ島やスラウェシ島、スマトラ島の一部地域で見られます。柄は主に花や鳥などの華やかなモチーフが多く、王族や高貴な人々が着用することが多いです。例えば、花は王族を象徴する花がモチーフで、権力を表した古い模様です。

経緯絣(ダブルイカット)

経糸と緯糸の両方に柄を染める前に、色を付けたくない部分に紐でくくって防染します。その後、染料に浸して色を付けます。染め上がった経糸と緯糸を交差させて織ります。この方法で作られたイカットは、バリ島のテンガナン村でしか見られません。この村ではグリンシンと呼ばれる経緯絣が伝統的に作られており、十字形の模様が特徴です。グリンシンは神聖な布として扱われ、祭礼や儀式で着用されます。

島ごとの模様の特徴

ティモール島のイカットの模様は、内陸部に住むアトニ族とベルー族によって代表されます。 アトニ族のイカットには、ワニやトカゲやヤモリといった爬虫類が多く描かれます。 爬虫類はラジャの先祖と考えられていることから、呪術的な霊力を持つと信じられているからです。 一方、ベルー族の布には人間が多く描かれています。 人間は彼らの先祖を表しているのですが、その姿は宇宙人のようでちょっとユーモラスです。

スンバ島のイカットには、よく動物の模様(水牛・鰐・亀・馬・蛇など)が登場します。 これらは皆、マラプ信仰から来る象徴模様です。 布の中には、スンバ島がたどってきた歴史そのものを表すものもあります。 インド風の模様、オランダ風の模様などがそれです。 インド風の模様には、「パトラ模様」やインド古代叙事詩を題材にした「ラーマーヤナ模様」などがあります。 これは13世紀にインド伝来のヒンドゥー教を奉じてジャワ島を制圧したモジョパイト王国の影響によるもので、王国の手がこのスンバ島まで及んでいたことを示すものです。

フローレス島のイカットには身近な小動物や花の模様が良く描かれますが、部族によりそのデザインは多種多様です。 全体的には濃い茶色藍色をした重厚な仕上がりになっているものが多いのですが、 島の西部に住むマンガライ人は、色とりどりのの糸を使用した鮮やかな花模様の織物を作っています。 島の中央部に住むリオ人のイカットには、蛇の模様がよく登場します。 フローレスにはこの他、キリスト教の影響で天子や孔雀模様が描かれた布もあります。

サウ島のイカットには花模様が多く描かれています。 藍地に大小の花を散らし、その周囲に星や小鳥、篭などをあしらった清楚で繊細なデザインです。 これはダイナミックなスンバ島のイカットの、まさに対極にあるように思われます。 この花模様は、昔サウ島に住む各部族を祖先のルーツごとに花の名前で呼び分けていた風習によるものです。 特にこの島では女性の地位が高たったこともあって、女性用の腰巻に一段と大きく花の模様が織り込まれ、特色になっています。 繊細なデザインは女性の美しさをより見事に引き出してくれます。

ロティ島のほとんどのイカットには、インド風のパトラ模様が描かれています。 これは一説によるとオランダ東インド会社が 染料の藍を輸出するため、 当時は富の象徴だったパドラ模様の使用許可を ロティ島のラジャに与えました。 その代わりに藍を栽培させたからだといわれています。
ガルーダインドネシア航空 機内誌を参考にしています。
現在、珍重され続けてきたイカットも、御土産品として量産化が進んだ結果、時間をかけて織り込まれてきた見事な品が少なくなってきています。また、伝統的なイカットを織る人も減ってきています。近い将来イカットに織り込まれる模様も、単なる装飾デザインになってゆくのかもしれません。